初乳
- 2012/08/10 06:21
「初乳」
我が家では、帝王切開で出産するケースが多いため、あらかじめ2頭の女の子を同時に交配、出産も一緒にと、できるだけ計画的に行っていますが、それでも毎回というわけにいかず、また、それまで自力でちゃんとお産が出来ていたのに突然帝王切開にという場合もあります。その様なとき、お腹から赤ちゃんが半分眠った状態で取り出され、羊水がきれいにぬぐわれ、か細い鳴き声をあげる頃、お母さんのお腹の縫合は完了します。痛々しいお母さんのお腹、でも無理をしてもお乳を何とか赤ちゃんに飲ませてあげなければと、看護士さんとともに必死で乳首を赤ちゃんに含ませます。「初乳」は赤ちゃんにとって非常に大切なお乳だからです。でも、初めの頃はこんな疑問もありました。
「初乳」って、赤ちゃんが最初に飲むお乳のこと、それとも母猫の出産後の最初のお乳?
今では、出産後最初に出る免疫力を多く持ったお乳だと知っていますが、改めて今回会報で取りあげてみることにしたところ、「初乳」に関する資料がほとんどないという壁にぶつかってしまいました。
そこで、「困ったときはこの方」、まず遺伝学に詳しい生物の先生MarchさんにHelpをお願いし、次いでクレド専属ドクターで、私のホームドクターでもある臼井良一獣医師に詳しいことを伺ってみました。
Wikipediaの記事より。
「初乳(しょにゅう、英: colostrum)は、分娩後数日間に分泌される乳汁。ただし、初乳の期間は学術上明確になっておらず、分娩後最初の乳汁のみや、分娩後5日目まで、分娩後1週間以内、分娩後10日目までと様々な解釈があり明確な定義はない。初乳は生理的異常乳であり、その後に分泌される乳汁とは組成が異なり、固形分、タンパク質、脂肪、灰分が多く、乳糖は少ない。特に抗体(IgGやIgA、IgM)や、IGFやEGF、NGFなどの成長因子が多く含まれることが特徴となる」
初乳の特徴となる抗体(IgGやIgA、IgM)は、種による配合割合が変わり、胎盤におけるの抗体移行能の違いにより、以下のように分けることができる。
1.胎盤を介して抗体(IgG)が胎子に移行できない。
ウシやウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、パンダなどでは、初乳を介してIgG(移行抗体)が新生子に移行するため、初乳にはIgGが高含有されている。 ウシでは初乳中の免疫グロブリンの吸収能力は生後24 時間以内で100%であり、ブタでは生後0~3時間では100%、3~9時間では50%である。
2.胎盤を介して低濃度の抗体(IgG)が胎児に移行する。
マウスやラット、イヌ、ネコなどでは胎盤を介して低濃度のIgGが移行するが、多くは初乳を介して移行するため、初乳にはIgGが高含有されている。
3.胎盤を介して高濃度の抗体(IgG)が胎児に移行する。
ヒトやウサギ、モルモットなどでは、胎盤を介して充分な抗体(IgG)が移行する。
以下解説 March Hare
I
GFはインスリン様成長因子、EGFは上皮成長因子、NGFは神経成長因子である。
IgG・IgA・IgMは抗体(免疫グログリン)のクラスである。
抗体はタンパク質であり、通常は経口投与しても小腸から吸収されることはない。
しかし、出産直後の新生児のみ、初乳に含まれる抗体は小腸から吸収される。
抗体産生は獲得免疫の結果である。つまり抗体は、出産後に新生児が抗原に感染した結果つくられるものであるから、出産直後の新生児はまだ自ら抗体をつくることはできない。従って、多くのほ乳類は胎盤を通して抗体を母体から胎児に移行させるか、初乳に含まれる抗体を新生児に飲ませることで新生児は免疫を得る。
特に、ネコは胎盤からはあまり抗体が移行しないので、多くの抗体が胎盤から胎児に移行するヒトよりも初乳を新生児に飲ませることが新生児の免疫獲得に必要となる。
新生児溶血症が、ヒトではRh-型の母親がRh+の子を二回目に妊娠した場合と、ネコではB型の母親がA型の子を妊娠した場合に起こることを思い出してみよう。
抗Rh抗体は胎盤を通って胎児の赤血球を壊すので、ヒトの場合は胎児段階で黄疸が現れ、出産後直ちに血液の入れ替えが必要となるが、ネコでは抗A抗体が胎盤を通らないので、出産後初乳を飲むことで起こることは上記の事実と対応している。
なお、ヒトでも同じ理由でABO式血液型でO型の母親がA型またはB型の胎児を妊娠した場合には新生児溶血症が起こらないのは、抗A抗体や抗B抗体はIgGではなく、5量体のIgMで、分子量が大きく胎盤を通れないからである。
「初乳]
獣医学博士 臼井 良一
人の胎盤は胎児側、親側とも血管が密接に接触しているため、出生以前から多量の免疫グロブリンを親から受動しているが動物の胎盤は胎児側が絨毛、親側が血管あるいは絨毛であるため、人より少ない量の免疫グロブリンしか受動することができないので、出生後、初乳から免疫グロブリンを受動することは大切である。初乳とは生後初めて飲む乳のことであるが、生後3日間を総称して初乳と云う。初乳は出生動物の受動免疫および栄養源としてきわめて重要である。特に高濃度の免疫グロブリン(IgG)とともに病気に対する抵抗性に必要なビタミンAも豊富に含んでいる。出生動物の血液中の免疫グロブリン量は少なく病気に対する受動免疫を得るには初乳中の免疫グロブリンを吸収することが必要である。出生動物が初乳中の免疫グロブリンを吸収する機能が持続するのは出生後16-27時間以内で、その後は消化管の消化酵素によってアミノ酸に分解されてしまうので免疫グロブリンとしてではなく、ただの蛋白質として吸収されることになる。動物では主にIgGが免疫グロブリンとして乳汁中に分泌されるが人ではIgAである。
出生動物(牛)自身の免疫:胎齢59日にIgM産生細胞、胎齢145日にIgG産生細胞、胎齢220日にIgA産生細胞が出現する。IgMは130日胎齢、IgGは145日胎齢で血液中に存在する。すなわち生前から免疫グロブリンを産生する準備が出来ていると理解できる。
(臼井先生は“牛”を対象とした「初乳」の研究論文を発表されているので、今回も「牛の場合ですが」と前置きされていましたが、Marchさん、臼井先生共に「初乳」は出産後最初に出るお乳ということでした。最悪の場合は、乳母さんに預けることも必要ですが、とにかく出産後すぐに母猫のお乳を飲ませることは、仔猫にとって、免疫力がどうつくかという非常に重要なポイントとなります。)