今からもう 7年前のことになりますが、いまだに忘れることの出来ないにがい思い出を書かせていただきます。
5ヶ月目に日本にやってきたジャコビー、空輸はどうしてもいやだったが私に時間がなかったため、知人に“バイトでフロリダまで猫を引き取りにいって”と頼んでみると 2つ返事でOK。
飛行機の中で貨物室にいれられては大変と、客室に連れて入れるように航空会社はノースウエストを選び、ホテルは“もし安いホテルに泊まって蚤とかダニとかついては大変だから、標準レベル以上のところに泊まるように”と注文を付けるなど、十二分に気を遣った。ワクチンも念には念をいれて 4回接種してもらった。
ブリーダーさんが薬剤師さんで、連れに行ってくれた知人から冷蔵庫にはぎっしり薬が詰まっていましたよ。と報告を受けたが、彼女が全て自分でワクチン接種をすると言うことだった。
大事に大事に運ばれてきたジャコビーは、そんな私の想いに気づいていたのか、どんな警戒心もなく家についたその晩から私のベッドにもぐり込んで、胸に抱きついてクークー寝たので、可愛さはいやが上にも増してしまった。
1週間ほどして落ち着いてから、健康診断をかねて日本でのワクチンを接種しておこうと考えたのが『危険』の始まりだった。
このときのホームドクターは特別優秀だったから選んだわけではなく、私の猫を譲った関係でお友達づきあいをしていた獣医師さんだった。
「あらぁ!可愛い子が来たのね」
「ええ、可愛いでしょ、毎晩一緒に寝てるの、よく遊ぶしよく食べるし、元気いっぱい。で、先生、この子ワクチンは 4回済んでいるんですが、日本のワクチンをしておいた方が安全かと思って」
「そうね、今パルボが大流行しているからその方が安心だわ」
お注射の前にお熱をはかっておきましょうねと言って、ジャコビーの肛門に体温計をいれて熱を計った。このとき、何をしてもご機嫌が良かったジャコビーが、イヤイヤをしたのは動物の本能で危険を予知したのかもしれない。
その日からちょうど 1週間後、発病。発熱、嘔吐、下痢。
直ぐに入院させて点滴をしながら様子を見ることになったが、いっこうに症状は良くなる様子がなく、毎日行ってみるたびにどんどん悪くなっているのは歴然としていた。
入院して 3日目。
「原因が分からないので血液を検査したところFIPの抗体価が高いのでもしかしたらFIPの疑いがあるからFIPに効くお薬を注射してみようと思う。」
不安であったが抗体価が高いと聞かされ、少しでもそれに効く薬であればと、藁にでもすがる思いで任せることにした。結果はなお悪いことになってしまった。血便が流れ出て、昏睡状態。
「先生、いったいこれはどういうことなんですか?」何か説明がほしかった。
ところが返ってきた応えは「ごめんなさい、なにがなんだかわからなくて…」
えぇえええ ???冗談でしょ !
何がなんだかわからない獣医さんにジャコビーをまかせた私が悪かったと、急遽大学病院に予約を取り、主人と 2人で危篤状態のジャコビーを入院先の病院から引っさらうように連れ出して、武蔵境に車を飛ばした。
4時間という時間があれほど長く感じられたことはない。待合室では待つ時間もなかった。「危篤なんです、お願いします。」なりふり構わず、半狂乱だった。
結局、息はまだかすかにあったものの、大学病院の先生にももう打つ手はなくて、冷たい診察台の上でジャコビーは息絶えた。
診断結果は信じがたいが、パルボだった。
確かにパルボ特有の便の匂いだったし、症状のどれをとっても典型的なパルボだったが、ワクチンを接種してあったため、その可能性に思い至らなかった。ジャコビーは 4回ワクチン接種をしてきたにもかかわらず、パルボで死んでしまった。
ブリーダーさんに報告して確認をとったが、ワクチンは絶対に打っていたという返事。私も、その後、自分で彼女の邸を訪れてみてわかったが、獣医師の資格も持っていてワクチンなどは、計画的にきちんと接種を怠らない性格の方だった。
なぜ、ジャコビーが接種したにもかかわらず、パルボにかかってしまったのか、専門の獣医師の先生に問い合わせたが、ついにそれは解明出来ずに終わってしまった。
それはそれとして仕方がないことであるが、問題はどこでパルボに感染したかということだった。
発症日から逆算して計算すると、パルボの感染から発症までは 3~ 6日、ということは健康診断でかかりつけの獣医さんに行ったあたりの可能性が強く、おまけにちょうどそのころパルボが流行っているなどという話題も出たことなど考えあわせると、ほぼ、間違いなく動物病院で感染したことは確実だった。
FIPに効くといって打った薬はパルボの猫にとっては致命的なモノだったと、大学病院の先生から聞かされた時、“ジャコビーごめん”と、私は自分自身の無知をジャコビーにいくら謝っても謝っても足りない思いだった。
原因が分からないのは仕方がないことで、獣医師を責める気持ちは毛頭ないが、仮にも命を預かる獣医師が「ごめんなさい、なにがなんだかわからなくなった」ではすまないのではないだろうか。
結局この経験から、獣医師探しに躍起になった結果が(その間の事情はすでにご存知の方も多いと思います)現在の宇都宮のU先生との出逢いとなった。
病気感染の可能性がある動物病院、危険がいっぱいあると用心してほしい。絶対に信頼できる獣医さんを捜してほしい。
自分の猫は自分で守ってってほしい。
友成晴世